今回は、働き方ライブラリーVol.3!
フリーランスでカメラマンをしているトータルクリエイツ代表(https://koji-sakaguchi.jp/)の坂口康司さんにお話しをお伺いしました。
会社になかなか馴染めず、ASDと診断される
俵谷:本日はよろしくお願いします!
坂口さん:はい、お願いします。
俵谷:まず、ざっくりと過去の経歴を教えて下さい。
坂口さん:まず、新卒で医療系のITベンチャー企業に入社しました。転職組が多くて、平均年齢はだいたい35〜40歳の人が多かったです。
もともと、急成長している会社に入りたいという思いがあって、1社目は入社した年の12月にマザーズ上場、そこから東証一部上場したので、環境的には申し分ありませんでした。
俵谷:しかし、そこから数年で退職してしまった、と。
坂口さん:自分自身と会社の雰囲気がマッチしていませんでした。
同期が7人いたのですが、全く話が合わなくて1人浮いていました。
当時は人と話すのが苦手で、トラブルが多かったです。
アスペルガーは、相手を無意識に怒らせてしまったりと、コミュニケーションに関してトラブルがよく起こると言われます。それがもろに出ていたみたいです。
俵谷:それが出やすい状況って、具体的にどんな時ですか?
坂口さん:あいまいな指示をされた時ですね。
質問の意図を理解できないからいろいろ聞いてしまって…。
細かいところにこだわって質問しすぎて、相手に面倒くさがられることもあります。
俵谷:アスペルガーの症状の典型例と聞きますね。
坂口さん:そんなこんなで、なかなか上手く適応できず、3年目になってもレベルの高い仕事を任せてもらえませんでした。
俵谷:周りの人はそういう症状に気づいていたのですか?
坂口さん:実は、会社の産業医から「こういう傾向があるよ」ということを言われていて、上司にも伝わっていたと思うのですが、会社からは特に対策をしてもらえませんでした。
結局、適応障害になって、パニックになったり、過呼吸になったりと仕事にも支障が出てしまいました。
俵谷:なるほど。理解してくれる人が周りにいなかったんですね…。
坂口さん:そうですね。そんな経験から、2社目で人事責任者をした時は、反面教師から働きやすい環境をいろいろと考えました。
創業ベンチャーの立ち上げに携わるチャンスが舞い込む
俵谷:1社目を退職した頃、転職しようと思っていたのですか?
坂口さん:企業で働くのはもう厳しいかもなと思っていました。
アスペルガーは芸術やものづくり分野に秀でているとよく言われるので、フリーのカメラマンをしようかなと考えていました。
ちょうどそのタイミングで、知り合いから「撮影サービスを立ち上げるけど手伝ってくれない?」と声をかけてもらい、参加することにしました。
俵谷:その時は会社に入る予定はなかった?
坂口さん:そうですね。最初は撮影業務だけを任されているだけでしたね。
しかし、徐々に撮影以外の仕事も任せてもらえるようになって、最終的には会社に入社しサービスの成長にコミットすることになりました。
俵谷:2社目に入社する時、不安はなかったですか?
坂口さん:正直不安はありました。
ただ、そこまで症状が顕在化していなかったので、大丈夫かなと思いました。
ベンチャー企業では裁量も大きく、仕事のやり方を自分で決められたので、相性が良かったのかもしれません。
俵谷:2社目では主にどんな仕事をしていましたか?
坂口さん:写真撮影、動画制作の統括、人事責任者、総務やバックオフィスなど、いろいろやっていましたね。
最後の方は、Webメディアのプロジェクトマネージャー(PM)もしていました。
ただ、やはり徐々にアスペルガーの症状が出てきてしまって、組織で働くのに向いていないと思うようになって…。
俵谷:フリーランスになったと?
坂口さん:そうですね。ただ、その一歩を踏み出せたのは、2社目の時に副業をしていてある程度の収入が見込めていたからです。
カメラ以外に、コミュニケーションの講師やコンサルという武器を見つけられたから独立できたのかなと思います。
なにか勝負ができるスキルがない状態で独立するのはあまりおすすめできないと思います。
コミュ力は「後天的な努力」で身につけられる
俵谷:1社目、2社目の経験を通して気づいた自分の弱み・強みを教えて下さい。
坂口さん:強みは全部で3つあります。
1つ目は、「興味があることにとことんハマれる」ことですね。
興味のあることだと、いわゆる過集中状態に入ることができます。
2つ目が「先を見通す力」です。
いろいろと細かい部分が見えるからこそ人と違う発想ができるし、さまざまな手段や選択肢を洗い出すことができます。
なので、計画を作ることは得意ですね。
3つ目が、人より「頭の回転が早いところ」ですね。
頭が先行して手が追いつかず紙に書き出せないこともよくあります(笑)
俵谷:反対に弱みは?
坂口さん:「意図せずに相手を怒らせてしまう」ところですね。
まだ完全に克服できていないですが、一個ずつ怒らさせてしまう言葉や態度を学習し、自覚することを積み重ねて解決しています。
俵谷:どうやって自覚したのですか?
坂口さん:メンタリストのDaigoさんが好きで、昔からよく本を読んでいました。
それを参考に、人のしぐさや表情を見て研究・分析していました。
細かいことが気になるというクセも、聞き方を工夫することで、相手を怒らせずに済みます。
俵谷:共感できますね。他の人が当たり前にコミュニケーションをしているけど、常々ハイコンテクストな会話だなと思っています…。
これは、定型の人にもぜひ参考にして欲しいコミュニケーション術ですね。
坂口さん:自分は「言語化能力」が高くて、抽象的な状態から具体的な原因や課題に落とし込むのが得意です。
課題を明確にできているから、適切な対策を打てるのかもしれません。
俵谷:この考え方自体はどこで学びましたか?フレームワークというか…。
坂口さん:大学生の時にビジネスバンクという会社で「起業家インターン」というインターンシッププログラムでベンチャー企業の働き方を肌で感じたり、優秀な人の考え方を吸収する機会がありました。
無意識のうちに、環境から会得していたのかもしれませんね。
俵谷:今と昔では自分の内面は変わりましたか?
坂口さん:そうですね、変わりました。昔は、いわゆる「コミュ障」でした。
高校時代は友達も恋人もいなくて、きらきらした野球部やサッカー部を羨ましく感じていました。
そんな中で転機が訪れたのが26歳の頃です。
金銭的に余裕ができたので、一旦、恋愛に振り切ろうと考えて、3ヶ月で40人に会いました。
コミュニケーションの場数を増やすことで、「こういう話題だと話が盛り上がる」「相手が喜ぶコツ・秘訣」が分かってきて、異性とのコミュニケーションのスキルが上がりました。
興味のあることで苦手なことを克服できることを、この時に学びました。
俵谷:過集中って具体的にどういう状態ですか?
坂口さん:努力が努力と感じなくなるような状態ですね。
例えば、私は料理が好きで献立や作り方、具材などいろいろ考えます。
周りからは「ストイックだね」とよく言われますが、私からしたら楽しくてついついやってしまっているだけなんです。
好きを仕事にする!趣味が仕事になる。
俵谷:世の中には、好きなことを見つけられない人も多くいます。見つけ方のコツがあれば教えて下さい。
坂口さん:過去に必ず一つはハマっている・ハマったものがあるはずです。
「自分にとっては普通だけど他人にとってはすごい」というものを探すことですね。
私の場合だと、「靴磨き」と「コーヒーを淹れる」という過去にハマったものから、料理にハマると思っていました。
俵谷:一見、関係ないように感じますけど、何か共通項があるんですか?
坂口さん:「靴磨き」と「コーヒーを淹れる」と「料理」には、
- もくもくと作業する
- やった結果、良いものが手に入る
- 新しいものを生み出す
- 組み合わせを考える
という共通項があります。
ハマったものを見つけたら、共通項を見つけるとよいかもしれませんね。
俵谷:今は、どのような仕事をしていますか?
坂口さん:企業が必要とするクリエイティブ(写真、動画、Webサイト、文章)をトータルでサポートしています。
俵谷:具体的にはどういう仕事?
坂口さん:主に「写真・動画・ウェブ」がメインで、個人的には写真と動画に力を入れています。
最近はWantedlyなどで採用活動をしているベンチャー企業に対し、写真や動画などのクリエイティブを改良することで採用力を強化する支援もしています。
撮影に関しては、企業の採用ホームページ、個人のビジネスプロフ写真、物撮り、物件撮影、撮影業務に関して幅広くやっています。
前職の経験から、動画も撮影〜編集までやっています。
あとは、コミュニケーションの講座やコンサルティングもたまにやっています。
俵谷:フリーランスの働き方は合っていると思いますか?
坂口さん:時間と場所が自由なのが良いですね。
あと、一緒に働く人を自分で決められるので、そこが合っているかなと思います。
俵谷:フリーランスになって苦労したことはありますか?
坂口さん:時間とお金の管理ですね。当たり前ですが、フリーランスって全部自分でやらないといけないので…。
俵谷:最後に、フリーランスで働きたいという方に、一言メッセージをお願いします。
苦手なことを平均点まで上げる必要はありません。
自分の好きなことをどう仕事に変えていくかが大切。好きなことが仕事につながったものもたくさんあります。
とことん、好きなことをつきつめていきましょう!
今回、取材にご協力いただいた方はこちら
坂口康司さん(トータルクリエイツ代表)
数千万円単位の資金調達に成功したスタートアップの創業2週間後にジョイン。カメラマン、動画制作、新規事業、人事関連など多岐にわたる業務を執行役員という肩書で推進する。 2019年に独立し、写真/動画/Webの力で企業のブランド構築をトータルにサポートしている。