時間とお金と場所の制約をなくしてみたら、「新しいはたらき方」に出会えた。生畑目さんを取材した|働き方ライブラリーVol.7

人の数だけ、さまざまな生き方がある。人生の転機にフォーカスを当て、その後人生がどう変わったか、そのときに何を考えていたかを掘り下げる連載企画、「働き方ライブラリー」も、いよいよVol.7。

今回は、SENA株式会社代表取締役の生畑目 星南(なばため・せいな)さんに、起業するまでのストーリーと、地方各地を飛び回りながらはたらくスタイルに至った経緯についてお聞きしました。

本当の”経営”を知るために、起業の道へ

ーーまず、過去の経歴を教えて下さい。

当初は、起業という意識はなく、まず人材系のベンチャー企業に新卒で就職しました。

大学生のときに所属していた心理学系のサークルで、とある経営者と知り合う機会があり、その方のふる舞いやロジカルシンキングに魅了されて、自分もこの人みたいになりたいと思いました。

その方はキャリア教育事業をされていて、それをきっかけに人材業界に興味を持つようになりました。

当時は就職氷河期でしたが、なんとか無事に就職でき、最高のモチベーションで入社したものの、華やかな社会人像と実際の仕事とのギャップを埋められずに退職しました。

ーー人材教育系の会社、個人宅をまわる新聞営業、投資系の金融会社を経て、中小企業の事業承継の支援・経営コンサルティングの会社に就職した生畑目さん。さまざまな会社で仕事をしていくうちに、自分の働き方に疑問を持つようになったそうです。

5人くらい規模の会社で、そこではNo.2として関わっていました。

社長の考え方やビジョンをうまく理解できない状態が続き、意見が衝突することも増え、このまま働いていけるのかと考えるようになりました。

契約更新のタイミングで、「この会社にフルコミットするか、やめるか、どっちか選んでくれ」といわれて。

ーーなぜ、そんな究極の話を社長から切り出されたのでしょう?

当時は、関係性の悪化が原因としか思っていませんでした。

論理的に物事を考えて、プランを立てて進めていきたいという自分の気持ちばかりが先行して、たくさん失礼な言動をしてしまっていたと反省しています。

結局、溝が埋まらず退職の決断をしたのですが、振り返ってみれば私に対する社長の愛情だったと思っています。

今でもこの会社での経験は私のビジネスに対する考え方のベースになっており、心から感謝しています。

ーー転職ではなく、あえて起業を選んだのですね。

そうですね。今回の退職で民間企業で働くのは向いていないと心底思いました。

また、プライベートの時間もうまく確保できておらず、業績が伸びるにつれ、忙しさも比例して増えることを考えると民間企業で働くという選択肢では同じことを繰り返すことになると思ったんです。

また、経営コンサルとして働いていたものの、実際に経営していないのにアドバイスをしているという負い目をどこかで感じていました。

だから、自分が経営する立場になってみないとな、って。

ーー決定的なきっかけについてはお聞きしましたが、経営コンサルの会社に入る以前で、起業を意識するきっかけはありましたか?

それでいうと、父が経営者だったというのは大きいかもしれません。

父は、もともとバイクのレーサーをしていて、それと並行してバイクショップを経営していました。最高で、年商10億円までいったそうです。

ーー10億円…!スゴ腕経営者ですね。

今は、もう会社をたたんで引退していますけどね。

あとは、前職のときに、複業じゃないですけど、「ココナラ」というスキルシェアサービスでテレアポについてのノウハウをまとめた資料を3,000円で販売したことがあって。それが1つ売れたとき、自分が作ったものが価値になったと、ものすごい喜びを感じましたね。

ーー確かに。自分が作ったモノを売るという経験は、ほんの小さな出来事ですけど、とても大きな一歩ですよね。

「コンサルティング」はしない。あくまで、経営課題を明確にすることが、僕の仕事です

ーー今はどのような仕事をしていますか?具体的に教えて下さい

11月に経営コンサルティングを退職し、1月に独立、7月に法人化しました。今は、伴走者として、経営者の業務改善サポートをしています。

ーー経営コンサルティングみたいな感じでしょうか?

「コンサルティング」という言い回しがあまり好きではなくて。なぜかというと、経営の本質的な問題は、僕らみたいな外部の人間では解決できないと思っているからです。

コンサルティングは、訳すと「問題解決」ですよね。

「答えはクライアントが持っている」、これは前職の経営コンサルの社長に教わったことですが、あくまで、僕の仕事は潜在的な課題を顕在化させること、課題を分解すること、そのために必要なアクション、スケジュール設計、優先順位をつけることであって、私が答えを提示し、私が課題を解決するのは仕事ではないんです。

ーーなるほど。具体的な業務内容で、もう少し教えてもらってもよいですか?

今取引しているクライアントさんは、営業チームの活性化を課題としています。

僕は経営者と現場の橋渡し役をしています。現場や経営者の人たちと関係性を築きつつ、課題解決のために必要なタスクを洗い出して優先順位をつけ、スケジュールに落とし込みます。

しっかり実行されているか、こまめに個別に連絡をとります。

ときには厳しく指摘をしたり、また反対に、業界の慣習や専門知識についてクライアント側に教えてもらいながら、課題を一緒に解決するために伴走していきます。

ーー仕事で大切にしているポリシーはありますか?

先ほども話した「答えはクライアントが持っている」という前提に立つことです。

解決のためにフレームワークを使うコンサルタントが多いですが、3CとかSWOT分析といったフレームワークはあくまで潜在的な課題を引き出すための手段でしかありません。

特に私のお客さまは中小企業の経営者ですから、理想論は通用しません。

徹底的に現場と向き合い、一つ一つ問題の解決に向けて一緒に悩み、汗をかき、考え抜くことしかできないと思っています。

ーー相手の課題ありきということですね。

そうですね。また、契約時には「会社をよくするために自分自身が変わっていく」ことに同意してもらっています。

というのも、課題を解決するためには意識を変革し、お互いベストな行動をとることが重要だからです。


独立前の生畑目さん

ーー独立してから大変だったこと、苦労したことはありましたか?

独立した当初はお金がなくて、そのストレスから言葉が上手く出なくなったり、寝付けなかったり、自然に涙が出たりと、苦しい時期でした。

コンビニで公共料金の支払いをしにいったのですが、そのお金が数十円が足りなくて、急いで家に戻って家中の小銭をかき集めてなんとか払ったことがあったのですが、「自分はこんなお金さえも払えないのか」と思って、悔しくて泣いてしまいました。

当時は、出入金のやりくりが下手くそで、お金ないけど、売上を立てるために打ち合わせで使うカフェの飲食代や商談先に向かうために交通費を払わないと……とジレンマになっていました。

ーーお金のやりくりは、新米フリーランスあるあるですね…。会社員に戻ろうと考えたことはありませんでしたか?

会社員に戻ろうとは思いませんでしたが、会社員ってとても恵まれていたんだなぁということは常々感じていました。

経営者になると体調崩しても納期を遅らせるわけにもいかないし、だからといって、質が低いまま納品したら、今後の仕事にも影響しますよね。

日々の生き方とか働いた結果が積み上がって、成果になるのがフリーランスや経営者だと思っていて。

お客さんからの感謝もクレームも、会社員のときとは違って、すべてダイレクトに返ってきますよね。面白いけど、いやでも常に自分と向き合う必要があるから大変ですよね。

地域に関わり、はたらき方が変わった

ーー法人化し、取引先も徐々に増えて、収入が安定してきた生畑目さん。そろそろ、何か新しいことをしたいと思っていた矢先。ランサーズから届いた「地域課題解決ワークショップ」の案内メールに目が止まり…。

顧問契約も獲得できて、収入も安定してきて、何か新しいことしたいなって思っていたんですね。「地域課題解決ワークショップ」という文字を見て、これは面白そうだな、と。

地域課題解決ワークショップとは…
「自分らしくをもっと自由に」をコンセプトとしたLivingAnywhere Commons(以下、LAC)と、ランサーズ新しい働き方LABの共同プロジェクト。「場所を問わない働き方」ができるフリーランスが、LACの拠点の一つである伊豆下田に訪問し、地域の企業から課題をヒアリング・解決策を考えるワーケーション企画。

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Living Anywhere Commons
株式会社LIFULLが運営する、定額制多拠点居住(コリビング)サービス。2023年までに全国100拠点のOPENを目指している。

ーー私と生畑目さんもそこで知り合いましたね。そして、今着ているパーカーの作者、タワシちゃんとも……。

そうそう(笑)ツッコミありがとうございます。

ーーいつ触れようか悩んでいましたよ(笑)

タワシちゃんとの最初の出会いは印象的で。無言でスッと似顔絵を書いて渡されて、一瞬で心を掴まれました。とても口ベタだけど素敵な人だなと思って。

ワタシはタワシ(増田あきこ さん)

2007年よりフリーランスのイラストレーターとして活動。雑誌・書籍のイラストやキャラクターデザイン、漫画、LINEスタンプなどを制作。制作したLINEクリエイターズスタンプ・絵文字は累計15万ダウンロード突破。個性的なTシャツやパーカーはこちらから購入可能。

有名ブランドもいいけど、顔なじみのある、好きなひとの思いを感じながら洋服を着るのはやはりテンションが上がりますよね。

僕がこうやって取材の場で着ることで、つながったきっかけを作ったランサーズの紹介も、タワシちゃんの紹介もできて、そしてこういうふうにコラボが生まれたよということを示せるかなと思って。


タワシちゃんのパーカー

ワークショップに参加して、地域のあたたかみを感じられたし、ふるさとに帰ってきたような、充実感を得られたんです。

下田で行われた2回目のワークショップでは、進行の一部を担当させてもらいました。みんなで一緒にイベントを作る経験がとても楽しくて。


ワークショップの経験を周囲のフリーランス仲間に話したところ、みんなで行きたい!と話が広がりワーケーションを体験しに再び下田へ。仕事も遊びも満喫し、充実した2日間を過ごしたそう。

その後、自分の事業計画を作りなおし、「時間とお金と場所の制約から解放される」というビジョンが生まれました。

もし、時間とお金と場所に制約がなかったら、もっと人生の選択肢が増えるなって。そんなきっかけを提供できる会社になりたい、自然とそう思うようになりましたね。

そんなときに、タイミングよくLACの新規拠点立ち上げをするコーディネーター公募の話が来たんです。

すぐに連絡をして、LACの小池さん、内田さんと面談をさせてもらいました。

そこでは、LACが目指していることや今後の展望について聞きました。

LACの「自分らしくをもっと自由に」って言葉と、自分のビジョンが近いなと思って、ジョインすることにしました。

ーーLACでは、具体的にどのような業務をされていますか?

拠点開発業務をしています。

具体的には、行政に確認をとりながら、お客さんが宿泊できる物件にするための書類作成、手配など。

例えば、宿泊所を作るには、旅館業、建築基準法、消防法をクリアする必要があるのですが、それぞれ管轄の行政が異なるため、行政と連携しながら書類を整えていく必要があります。

また、LACでは「DIO(Do It Ourselves = みんなで作ろうの略)」という考え方があって、施設内で必要なものはみんなで作るんです。

LACはデータを入力すると自動で木材を切断してくれる「Shop Bot」という機械を持っていて、これでテーブルとか棚とかを作ったりすることもできるんですよ。

ーー実際に生畑目さんも作るんですね。

そうです。私自身はまだ体験できていないのですが、みんなでペンキを一緒に塗ったり、テーブルを作ったり。

みんなで作ることそのものが、すごく素敵で童心に帰る体験に価値があると思っているのでこれからとても楽しみです。

小池さんがよく話をしている「拡張家族」という言葉が好きで、他人だけどファミリーとして同じ空間を共有するという心地よさがいいなと思って。

概念が覆ったというか、今まで自分になかった考えを実践している人がたくさんいて、刺激的な日々を過ごすことができています。

人間が本能的に求めている生き方、働き方を作ろうとしている会社で、心から共感するし、これからも一緒に価値のある空間を創っていきたいですね。

ーー最後に今後の展望について教えてください。

会社経営って、将来を約束されているわけでもなく、手探りで進むようなものですよね。

特に、今はコロナによって経済が停滞しています。

今後良い見通しがない中で、どうすれば充実した時間を過ごせるか、食べていけるのか、未知のことに向かって進んでいくことがおそらく自分は好きなんだなと。

直近の目標としては社員の雇用ですね。

経営者と同じ状況にならないと、経営者には寄りそえないと思っているので、雇用した社員をきちんと食べさせてあげられるか、素敵なキャリアを支援してあげられるかが今後の課題ですね。

新型コロナウィルスの影響もあり、雇用をすることをリスクと捉える考え方が加速している状況ではありますが、それでも敢えて挑戦することに意味や意義を見出していきたいです。

ーー起業・フリーランスを目指している方へアドバイスをお願いします。

よく「とりあえず起業してみれば?」というアドバイスがありますが、今の時代は会社員をやめなくても複業からチャレンジしていくことができます。

それこそ、社内規定で副業ができなかったとしても、会社の中でもそれは実現できると思います。

自分が担当している仕事に対し、主体的にどう意味づけをするか、それだけでガラッと仕事の捉え方も変わるし、楽しさも変わってきます。

スキルがないなら、相手が知りたがっている情報を提供することから始めてみる。

まずは、自分ができることから、価値を提供していけばいいんじゃないかなと思います。

ただ、独立したら嫌でも自分と向き合い続ける必要があるので、そこだけは覚悟を決めることをおすすめしたいですね(笑)

今回、取材にご協力いただいた方はこちら

生畑目 星南(なばため・せいな)

2019年1月に資料作成代行業で独立。同年7月にSENA株式会社を設立。現在は、中小企業の戦略構築及び業務代行サービスを主な事業として活動。著書に「分かりやすい提案書の3RULE5DESIGN」「今さら聞けないテレアポのキソキホン」など。最近DJ機材を購入し、空いた時間で音楽を楽しむことがマイブーム。

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